豚飼いの名言集③ 『一豚入魂』

f:id:BUTAchan:20210912185241j:plainこんにちは。BUTAchanのブログへようこそ。
今回は、養豚家の名言パート③です。

③ 『 一豚入魂 』

今回も、読んで字の如く です。野球界で「一球入魂」と言われるのと同じで、豚1頭1頭に魂込めて育てましょう!ということです。
『一豚入魂』は、会社によっては事務所に掲げられていたり、公に発信する時に言われたりするので、聞いたことのある方もいるかもしれません。

ところで、養豚場の豚たちは、競争社会で生きています。人間以上だと思います。この競争社会を弾かれずに生き抜いてきた豚たちがお肉になります。我々従業員は、弾かれそうな豚を救って拾ってうまくお肉になるように、1頭1頭気を配っていますが、今日はそんな競争社会の一部を書いてみます。


〘生まれる前から競争〙

豚の子宮は人間と違い、ひとつの入口(出口でもある)から左右2ヶ所の子宮に分かれています。そのトンネル状の子宮に、胎児たちは枝豆のように1頭いて、また1頭。。。と入っています。母豚のコンディションにもよりますが、子宮内の胎児同士の距離が近いと、栄養と場所の取り合いで、十分に発育できずに小さく生まれてきたりします。植物と同じイメージですね。植物ならば間引きを行いますが、何しろ子宮内なので。。。我々にできることは、母体に十分な栄養を適切な時期に与えてあげること、つまり餌量と体型管理です。


〘良いおっぱいをめぐって競争〙

無事に生まれてきたら、次は「乳争い」が始まります。出の良い乳房は取り合いで、これに勝利するとすくすく育つことが多いです。一応、豚は乳争いで決まった場所の乳房で哺乳するといわれています。なので、出が悪い場所しか残っていないと、発育不良になったりもします。すべての乳房の出が良いのが理想ですが、なかなか難しいです。上(顔側)から2番目の乳房が一番出が良い、といわれています。
いくらおっぱい(乳頭)がいっぱいあっても、乳の出が良い母豚と、そうでもない母豚がいます。これは母豚としての能力ということになりますが、仮に分娩時に10頭生まれたとして、そのまま10頭バラつきなく育て上げる母豚と、成長不良の仔豚が数頭出てしまう母豚がいます。
母豚は生涯に何回も分娩を重ねるので、このあたりの数字は母豚の「成績」として記録しておきます。何頭産んだか(総産仔)、その内生きているのは何頭か(生存産仔)、離乳することができた頭数(離乳頭数)、あと生時体重や離乳体重・哺乳期間なども「母豚カード」(カルテのようなもの)に記録して、その母豚の近くにおき、すぐに情報が見られるようにしてあります。これは、分娩舎では「里子」をする時に参考にします。たくさん産むけれど育てない母もいれば、仔数は少ないけれど乳が良くて育てる母、産むし育てる母、産まないし育てない母(→これはリストラされますが。。)色々います。
話が逸れましたが、あとは良い乳が出るには母豚が元気でないといけません。分娩後の肥立ちが悪い、というのもしばしばあるので(特に夏はひどいです)、母豚が元気に餌を食べる状態をキープするのが分娩舎の仕事の一つだと思っています。最近は、良い代用乳も販売されていますが、豚の世界では「母乳しか勝たん」と思います。1日中仔豚に代用乳を与えていて良いというなら話は別ですが、仕事が他にもたくさんあるので厳しいです(涙)。もちろん、成長不良の仔豚を救うためには代用乳は良い仕事してもらっています。


〘集団社会での競争〙

そうして、順調に育ち、離乳を迎えると集団生活の始まりです。哺乳中は10頭くらいの兄弟で生活していたのが、(農場によって様々ですが)30~100頭くらいの群になります。豚1頭ずつに餌箱があるわけではなく、2~5頭くらい一緒に食べられる餌箱で順番に食べるため、強い豚がずっと食べていると弱い豚は負けてしまい食べられない、ということも割とあります。なので、できるだけ群のパワーバランスを均等にするべく、「群分け」という作業も大事です。養豚場の豚は、月齢・サイズによって何回か引っ越しをするため、移動するたびに大小分けをしてやるとキレイに育ったりもします。例えば、離乳舎では50頭、仔豚舎では25頭、肉豚舎では12か13頭のように、基本的にはどんどん群の頭数は減らしていくのがベストです。
途中で、食い負けてきて細くなってくる豚もいます。農場によっては、そういう「落ちこぼれ」たちを集める豚房もあります。手遅れになる前に落ちこぼれ部屋に抜いてやり、飼いなおしてやることで、立派な肉豚に戻ることも多いです。
ただ、1つの群が少数ならば良い、というわけではありません。豚房の広さによって適正頭数は異なりますが、多すぎても少なすぎてもよく育ちません。少ないと、餌をあまり食べなくなってしまいます。ある程度の競争は必要で、「みんなが餌を食べているから私もたべなきゃ!」なのかな?逆に頭数が多くて自分の食べる番が全然こないと、そのうち豚はあきらめてしまいます。豚は悪い意味で「あきらめがよい動物」なのです。


いかがでしたか?豚も人間も競争社会で暮らしているのですね。
「一豚入魂」は生前から出荷するまでの落ちこぼれを救うことなのか。。。と、書いていたら変に納得しました。
それでは、また機会があればよろしくお願いします。

                                 (続)


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